退職された清水先生の研究
収縮付き円管内の脈動流の抵抗に関する研究

先天性心疾患のなかでも最も頻度が高い病気の一つに、心室中隔欠損症がある。これは、心室中隔(図1)に穴が開き、その結果圧力の高い左心室から右心室へと血液が流れ込む病気である。右心室から肺動脈へと高圧で流出する血液の影響により、肺動脈および肺の血管に加わる圧力も増加し、血管が厚くなる。その結果、肺におけるガス交換が行われにくくなってしまう。
心室中隔の穴が小さい場合は幼児期までに自然にふさがることもあるが、場合によっては手術により穴をふさぐ必要がある。しかし、新生児の場合は身体への負担を考慮し、すぐに心臓への手術は行わず、ある程度の成長を待ってから行うことになる。その間、暫定的な処置として、肺動脈を締結する処置が行われる。この処置は、肺動脈を締結することにより、肺へ流出する血液の流量を減少させ、また血管に加わる圧力を減少させることを目的としている。これにより、血管が必要以上に厚くなることはなく、ガス交換に支障は生じなくなる。しかし、現在この処置は術者の経験に大きく依存しており、肺動脈締結形状が血流や血圧に及ぼす明確な影響は不明である、そこで本研究では、収縮部を有する円管内を流れる脈動流モデルを作成し、実験および数値シミュレーションにより流れの現象を明らかにすることを試みた。
はじめに本研究では、数値シミュレーションにより流れの現象を解析した。簡単のために、流れ場は収縮部も含めて円管とし、収縮部より上流および下流を同一軸上に設定した(図2)。また、流れ場全体が軸対象であるため、実際の計算は2次元拡張モデル(図3)を用いて行った。


上述したモデルの流入部に、図4に示す拍動流を連続的に入力し、内部の流れの様子を解析した。

解析結果を図5に示す。(画像をクリックするとGIF動画を見ることができます。200KB程度)これより、流入する脈動流がピークに達する時刻に収縮部直後で剥離が生じることがわかる。さらにその後、剥離部分の逆流域が後方に長く伸びることが確認できる。また、収縮部後方の最大圧力損失を求めたところ、直管に比べ50 (Pa)以上減少することが明らかになった。圧力損失の大きさは、収縮部形状に依存し、収縮部直径がその前後の直径の30%以上となると、大きな圧力損失が生じることがわかった。
今後は、より肺動脈に近い形状モデルを作成し、数値シミュレーションにより流れ場を解析するとともに、実験も平行して行う予定である。